以前の作品
読書 日本人に英語は必要である 寺嶋眞一著
日本人の意識構造批判
タイトルから想像すると、英語学習のハウツー本のようだが、そうではない。著者は現在、琉球大学医学部の教授で、ワシントン大学医学校に留学体験もある。専門の生理学では論文も多数あり、井上学術賞を受賞している。
これまで発表した文章から選んで随筆集にまとめたという。専門の分野ではないとしながらも、国政、官僚、経済、警察不祥事から大学改革にまで著者の批判の矛先は容赦ない。著者は、日本社会の混乱を日本語に「時制」がない言語上の欠陥からくるものであるとユニークな見方をしている。
英語には、将来のあるべき姿とそれをなしとげる強い意志をしめす「will」があるが、日本語には存在しない。だから組織の指導者も個人も、ことなかれの現実主義に流されている、と著者は主張している。
同じようにモーゼの十戒の「You shall not kill」のshall を現在形の「Do not kill.(殺すな)」だけでなく、あなたは未来においても殺人をしてはいけないという意味を含んでいると解釈。神の教えは未来形の中で人間の条件を規定しているが、日本社会ではそれがないので、社会が混乱しているという。
「日本人は未来と過去を見通すことのできない霞の中に住んでいる。この人たちには、アッケラカンとした透明な世界の奥深さを窺い知ることは容易でない。将来は、地方の時代であるといわれている。しかし、ユニバーサルな考え (哲学) を持たない人たちは、常に中央政府によるコントロールを必要とするに違いない」
全編、日本人の意識構造に対する批判で満ちている。英語をわが国の第二公用語にすれば、日本社会はあるべきいい方向に変わるという著者の主張に反発する読者もいるに違いない。一方で著者の指摘に納得する部分も多いはずだ。
(高嶺朝一・琉球新報論説委員長) (新風舎1100円) ,
琉球新報 2001年 (平成13年) 6月10日 (日曜日)