□実感のこと
山本七平は、<「空気」の研究>のなかで、日本語に未来構文のないことにより生ずる未来に関する混乱状態を現象的に取り上げている(■を付した段落)。
■人間の手は未来に触れることは出来ない。明日の状態に手を触れ得ないだけでなく、一時間後、一分後の状態ですら手を触れ得ない。簡単にいえば、たとえば何かの拍子にストーブがすべって近寄って来ても、それが体に触れるまではジュッと感じないわけで、その五分前でも、人はそれに予め触れることはできない。 、、、、、これを短く言えば、「人は未来に触れられず、未来は言葉でしか構成できない。しかしわれわれは、この言葉で構成された未来を、ひとつの実感をもって把握し、これに現実的に対処すべく心的転換を行なうことができない」ということになるであろう。臨在感的把握は、それが臨在しない限り把握できないから、これは当然のことと言わねばならない。
つまり、彼の文章を私の言葉に置き換えてみると、「未来の感覚は得らないから、未来構文の内容でしか存在しない。この未来構文の内容は実感できないし、日本語には未来構文がないから、未来構文の内容に照らし合わせて現実的な対処を行うこともできない」ということになる。これが英語ならば、未来構文の内容として感覚を予測できる。日本人は危機管理が不得意であるということである。実感は、それが現実に存在しない限り得ることができないから、現実構文しか利用できない日本人には、この困難は当然のことである。
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□個人のこと
人の話す事柄には、主観的な事と客観的な事がある。心の中の事は主観的で、一人一人違う個人的なことで、全員一致させることができない。だが、心の外の事は客観的で同じである。心の外に関する事で、個人的に違うことは事実誤認と考えられる。それで、事実関係を調べて、客観的な内容を合わせなくてはならない。
日本語には、時制がないので、唯一の構文は現在構文として使用されている。従って、日本語には未来構文はない。現実構文(現在構文)の内容は、実況放送・現状報告の類の内容である。そして、未来構文の内容にこそ個性は表れるが、日本人には個性的な考えが出しにくい。
日本人が個性的な内容を現実構文で示せば、それは感情表現のようなものになる。その他のことは空論・絵空事になる。日本人が個性的な知的言語表現に欠けているのは、個性ある発言をする人(個人)の考えの存在を容認できないことに関係がある。
この日本語・日本人の知的欠点を補うためには、わが国への英語・英米人の助けが必要である。
以下に掲げた個人無視の例(■を付した段落)により、わが国における没個性の現実を示すことが出来る。
■宮本政於は、自著<お役所の掟>の中で以下の如く述べている。
そこで、官僚に代表される、大組織の世界が、「個」の否定を大前提にしているとして考えると、なるほどと思い当たるフシが多々ある。「大過(たいか)なく」に代表されることなかれ主義、自主的・独創的の否定、自由競争より悪平等、ポリシーより調和、能力より年功序列などは、この基本がなくしては成立しなし。根回しによる「みんなで渡れば怖くない」的状況の形成、 、、、、これらはすべて「個」の徹底した否定と絡み合っている。
■小松真一は、<虜人日記>の中で、以下の如く述べている。
独系の米兵がいうのに、米国は徹底した個人主義なので、米国が戦争に負けたら個人の生活は不幸になるという一点において、全米人は鉄のごとき団結を持っていた。日本は皇室中心主義ではあったが、個人の生活に対する信念が無いので、案外思想的に弱いところがあったのだという。
■司馬遼太郎は、<風塵抄・二>の中の「地雷」で書いている。「いまの地雷はプラスチック製もある。それらには金属探知機も有効でなく、一人の技術者が地を這い、地面に釘をさし、針のさきに地雷を感じてはじめてそこにあることを知る。一つまちがえば、いのちが吹っ飛ぶ。 、、、、、平和のためとか人類のためなどというのは、口では言うことはたやすい。が、いまなお、平和も人類ということばも多分に観念語で、人間をうごかしている諸欲からみれば、絵空事(えそらごと)に近い。その絵空事が魂の中に入っていなければ、このような作業はできるものではない。この世に祇園精舎の平和を実現するためにとでも思わねば、やれるものではないのである。」と。
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